☆結婚退職のはずが
看護師長になってからは、管理職としての事務的な仕事は増えたものの、現場でナースをしていたときよりずっと、自分の判断で動ける時間ができるようになりました。
現場をできる限り把握しておきたいタイプの私は、若い看護師たちと昼食をとったり、休憩時間に話を聞いたりしています。
女性の多い職場ですから、どうしても噂話は出てしまいます。私はそうしたとき、彼女たちのストレス解消でもあるのだからと、聞いていないフリでやり過ごします。
今日話題になっていたのは、昨年末で辞めた、Sさんのこと。
Sさんは、色白でほっそりとした美人です。この病院のある町が地元の彼女は、「元ヤン」なのだと他のナースから聞いていました。
勤務態度は可もなく不可もないといったところですし、元ヤンキーだろうが何だろうが、私は彼女を仕事面ではごく普通に評価していました。
そんな彼女が、事務所に退職願を出した理由は、結婚に向けて準備したいということでした。
本来なら、私のところに相談してから退職願を出して欲しかったと、すこし残念に思いましたが、結婚に向けての出発なのだからと、笑顔で送り出しました。
ところが、そのSさんは、隣町のキャバクラで働いているという噂です。
看護師はよく転職をすると言われますが、看護師としてではなく別の仕事に就く女性も多く、水商売に転職するのも珍しいことではないのです。
☆仕事のストレス
看護師の仕事は、人の命に関わる重大な責任を伴います。
しかも、仕事の上でのストレスはそれだけではありません。もちろん、点滴や薬を間違えてはいけないなどのストレスもありますが、それ以上にストレスを感じるのは、人間関係なのです。
患者さんは弱っていますから、普通の精神状態ではありません。私が現場のナースだった頃は、患者さんにもいい人が多く、明るく振る舞ってくれるムードメーカーのような男性が各部屋にいたりしたものですが、今はそんな空気がまったくありません。
また、ナース同士の人間関係も難しいものがあります。
Sさんの家庭は、身体の弱い母親と年の離れた父親違いの弟で、Sさんが母と弟の生活費、弟の学費を出していて、野球部で有名な私立高校へ通っていると聞いていました。
夜勤をすれば、確かに女性としては高収入を得られるナースですが、そのストレスを考えるとやはり、他の仕事で稼いだ方が良いということになるのでしょう。Sさんも、キャバクラに転職とは言えずに辞めたのだと思います。
まだ家族の面倒をみているのかどうかはわかりませんが、噂話とはいえ、久しぶりにSさんの近況を知り、幸せになって欲しいと思いました。